【コラム】行政書士試験って実務で役に立つの?無駄な勉強?現役行政書士の思うこと【法的思考力の訓練】

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今日は行政書士試験が行われました。
全国の試験会場で13時から3時間通しで行われる試験で、なかなかハードだったと思いますが、受験者の皆様お疲れ様でした。

私が受験したのは12年以上前のことですが、試験勉強の辛さや当日の試験会場の様子は今でもありありと思い出せます。(勉強した内容はだいぶ忘れましたが…)

勉強を始めたのはだいたい前年の12月くらいからで、岐阜から名古屋の専門学校(いわゆる資格の学校)に通っていました。
講義を担当された先生が大変合っていて、法律素人だった私でも分かりやすく「おもしろい!」と感じる講義内容でしたし、毎回先生の授業を楽しみに学校に通っていました。

資格の学校あるあるですが、休憩スペースでいつまでも喋っている「常連」さんたちっていますよね。
彼らを見て「あんな風にはならない」と固く心に誓い、学校での友達も作らず黙々と自習室で勉強していました。

夏頃から徐々に詰めの勉強を始めていき、試験前の10月は延々と過去問のおさらいと行政法の条文を暗記していました。
条文は一言一句覚えていないと受からないので、電車での通学時間や食事のときも条文を読んでいましたし、ついに夢にまで条文が出てきて「いよいよ追い込まれてきているな…」と感じたものです。

最後の方はだいぶ辛い精神状況でしたが、なんとかその年に合格できてほっとしました。

さて、行政書士試験は主に「憲法」「民法」「行政法(行政手続法、行政不服審査法、行政事件訴訟法、国家賠償法及び地方自治法など)」「商法」「基礎法学」という分野に分かれています。
また、「行政書士の業務に関し必要な基礎知識」として一般知識や個人情報保護法などが出題されます。

しかし一部の方々の間では、他の士業の資格試験に比べると、その勉強内容は実務ではほとんど使わない法律ではないか、試験勉強で得た知識は実務では全く役に立たないとまでいわれています。
たしかに実務上は建設業法や廃掃法といった個別具体的な法律に則って仕事をするので、試験で勉強する憲法や民法(相続や親子関係等ではダイレクトに使いますが)を直接使って仕事をする、というのはあまり機会はないかもしれません。

ただ私なりに、これらを必死になって勉強する意味はあったと思っています。

まず「憲法」は、この国の基本的な人権・権利の内容や統治機構(国会・内閣・裁判所)の役割を知ることによって、日本という国の法律的な根本原理を学びます。
また最高裁判決を通して、判例の読み方を学び、これは実務関連の裁判に係る判例を読む際の助けとなります。
判例の読み方を知っていることでより正確な解釈ができ、その知識はお客様への話のタネや「こういう裁判例があったのでこのやり方はマズいです」といった説明の仕方に活かすことができると考えます。

「民法」法律的な基礎用語・知識・基本概念の勉強と思考方法の訓練になります。
「代理」「抵当権」「取り消し・無効」「みなす・推定する・準用する」等々の用語は実務でも頻繁に出てきますし、士業を名乗るのであれば必ず知っておくべき用語・知識のオンパレードです。
債権法の学習を通じて、契約の成立要件や債務不履行責任といった基本的な概念が理解できますし、
また、物権法の学習を通じて、不動産に関する権利関係を理解し、不動産登記簿を読む際の基本的な知識が習得できます。
相続を専門とする行政書士であれば、家族法の知識は直接業務に生かされますね。
また、実際に過去問を解きながら学習を進めることで、法律的なものの考え方を養うことができます。
うまく言語化できないのですが、一般の「常識的に考えて」とは異なる、法律の世界特有の論理的な考え方や解釈方法があります。
そのような考え方を学ぶことによって一応の「法律家」としての素養が身につくと思っています。

「行政法」条文の読み解き方を勉強します。
法律には「総則的規定(目的・趣旨、定義規定、制度運用)実体的規定、雑則的規定、罰則規定」といった”建て付け”があり、許認可実務で使用する法律も同様の構成や条文のつくりになっています。
また行政法の勉強では、それぞれの条文を読み込み解読することを強いられますが、これは条文特有の言い回しや条文読み込みに慣れるための第一歩です。
「誰が」「何を根拠に」「誰に対して」「何をするのか」といった点を明確にし、「ただし~を除く」等の例外規定を確認する、というような条文の精査はいつも行う訳ではないですが、
込み入った案件になると条文に立ち戻って考える、という場面が出てきます。
また「〇〇条を準用する」「✕✕条に違反したときは~に処する」といった”条文間の参照”も、行政法の学習を通して嫌と言うほど勉強しますが、実務でもよくあることなので慣れておいたほうがいいでしょう。

主な3分野について、思いつくままにその意義について書いてきましたが、行政書士試験のための勉強とは、結局「条文を読み込む基礎体力づくりと法律的な読解方法・思考方法の訓練」というところではないかと私は考えます。
実務に直結する内容ではないかもしれませんが、試験勉強を通じて、これから始まるであろう長い行政書士人生の礎を勉強していたと思ってください。
一部SNSや掲示板で揶揄されるような”無駄な勉強”では決してありません。